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pode ser um romance

里山逍遥 memorandumⅤ 「君を待つ時間」

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これからの時季、里山は色とりどりの冬鳥たちで賑う。
あの頃は、そんな美しい冬鳥たちの撮影に嵌り、毎週末は日が暮れるまで森の“定番ポイント”でカメラを構えた。

狙いは、ミヤマホオジロ、ベニマシコ、ルリビタキといった冬の里山のスターたちだ。バードウォッチャーからは死角になるそのポイントでは、一日中自分のペースで誰にも邪魔されずに過ごせるのも嬉しかった。が、必ずしも撮影は満足する時ばかりではなかった。
山間の小さな陽だまりに陣取り、ただひたすら彼らを待つのだが、シャッターチャンスはそう簡単には訪れない。吹き荒ぶ北風の中、ただ待つだけの時間。まったくあてが外れてしまい、1度もシャッターを切らずにトボトボ帰る日もあった。

この日は予報に反して小春日和になった。
まだ霜の残る畦道から山道を辿り、いつものポイントにカメラを据える。テルモスの温かいコーヒーを飲み始めて間もなく「チッ チッ」っと微かに地鳴きが聞こえた。
「来た!?」
その途端、背後を素早く鳥影が横切る。
狙い通りの小枝に姿を現したのはアオジだった。
オリーブグリーンの肢体は微かに震え、ほんの数メートル先の私に気付く気配もないのだが、数枚シャッターを切ると、パタパタっと羽音とともに飛び去ってしまった。

場所が場所だけに、そのポイントは昼下がりにはすっぽりと日陰になってしまう。すっかり冷や飯になった弁当を食べながら、いつものように「君を待つ時間」と題した記録ノートを執る。
時刻は15時過ぎ。
時折、上空を猛禽類が風に乗って横切っていく。日が陰ってから、急に風向きも変わったようで少し冷え込んできた。
この日は、それっきり彼らが現れることはなかった。
by windy1957 | 2013-11-29 12:46 | memory of Satoyama